時事記録 就職活動のために

10/19/2006

DDT WHOが対マラリアで散布勧告

 「DDTの毒性は、認可されている他の殺虫剤より弱い発がん性は、実際にはないことが分かった。人体に直接的な影響を与えないことは、科学的調査によって証明されている」。WHOマラリア対策本部のギエ調整官は強調する。

 敗戦後の日本で、白い粉を頭からかけられた記憶がある年配の人や、そうした映像を見たことのある人も多いだろう。南方からの帰国兵が持ち込んだ感染症の拡大を防いだのがDDTだった。

 DDTは19世紀後半に合成された化学物質で、安価で高等生物への急性毒性が弱く、マラリアを媒介する蚊の駆除に劇的な効果を上げることも分かった。

 しかし、米国の海洋生物学者、レイチェル・カーソンが1962年、著書でDDTの生態系への影響を指摘。他の研究者からも発がん性やホルモンに似た作用があるという報告が相次いだ。このため、日本国内で81年に使えなくなるなど、80年代に各国で使用禁止。

 スリランカでは46年に年間280万人が感染したが、DDT散布によって63年は17人と激減した。ところが、64年の使用中止で5年後には年間感染者が250万人に戻った。最近は全世界で年間5億人以上が感染し、100万人以上が死亡。

 こうした状況の切り札として、WHOはDDT復権を図ろうとしている。ギエ調整官は「ずっと使い続けろというわけではない。マラリア制圧という限定的な目的での使用を進めているだけだ」と説明。

 DDT有害説は完全に否定されたのだろうか。国立環境研究所環境リスク研究センターの曽根秀子主任研究員(分子毒性学)によると、最近の欧州などでの研究で、DDTと男児の生殖器異常との関連性を示す報告がいくつか出ており、DDTのホルモンに似た作用による影響。野生生物はヒトよりもさらに敏感で、米国ではワニの生殖器異常などが報告。動物実験の結果では、発がん性も完全には否定されていない。曽根研究員は「さらに研究が必要だが、どうやらリスクはありそうだ」。

 有害化学物質による汚染防止を目的に一昨年発効したストックホルム条約は、DDTを規制対象としている。同条約事務局のウィリアムス報道官は「マラリア対策での使用は条約でも認められているが、あくまでも例外だ」と話す。

 日本もマラリアは人ごとではない。国立環境研究所の小野雅司・環境健康研究領域総合影響評価研究室長(環境疫学)は「温暖化によって蚊の生息域が広がれば、将来的には流行する危険がある」。しかし、厚生労働省や環境省は「今回のWHOの声明に絡み、国内でDDTの規制を緩和する動きは出ていない」。